真夏の苦しみは才気あふれるルーキーを大きく成長させた。F東京は8月、思わぬ停滞に苦しんでいた。7月25日のJ1第19節の広島戦から1ヶ月間未勝利が続いた。勝ち星から見放されたチームの中にあって、際立つ働きを見せる選手がいた。それがMF米本拓司だった。
今季プロの門を叩いた新人選手は出場機会を掴むと、チームに欠かせない選手へと成長した。飄々とした語り口とは裏腹に、攻守の軸となってピッチでの存在感は日を追うごとに増している。
面白いデータがある。米本は8月の「Stats Stadiumポイント」の月間ランキングで、パス系データで軒並み上位にランクインした。『接触数(435回)』『パス総数(375本)』でリーグトップに輝いている。いずれもどれだけゲームに関わったかを表す指標だ。米本が中心選手としてチームを引っ張ったかを示すデータだといえるだろう。また、『敵陣へのパス数』でもリーグ2位にランクされている。しかも、その成功率が84.2%と非常に高い。データが全ての物差しとはいえないが、この成功率の高さは、効果的な攻撃を生むクサビのボールを入れていることを証明している。
守備的な印象の強い米本が、なぜリーグトップの数字を叩き出せたかを、隣のポジションの選手が証言してくれた。
「僕の足首(のけが)を気にしてくれて、前に出て行ってくれていた」(梶山陽平)
チームの柱であるナンバー10の危機的状況が、ルーキーの潜在能力を開花させた。米本は「初めて会ったときから存在感が別格やった。これがオリンピック代表の10番かって思っていた。僕はボールを奪ったら隣のカジくん(梶山)に預けるだけですから」と恐縮するが、データは正直だ。そして米本は、獅子奮迅の活躍を見せた8月を締めくくる“どでかい一発”を味の素スタジアムで披露して見せた。 F東京が約1ヶ月ぶりの勝利を飾った8月29日のリーグ第24節大分戦。後半49分、ピッチに衝撃が走った。米本は、ゴールまで飛距離32.9mを残して右足を振り抜いた。ボールは大分GK西川周作の頭上を破り、ゴールネットを激しく揺さ振った。「打ったら入っていた」と驚く喜び慣れないルーキーは何度も拳を振って「ヨッシャー」と叫び続けた。「ヨネは守備だけの選手じゃない。このチームで一番練習を重ねてきた。そういう選手だから、あそこで決められた」と、指揮官も珍しく賛辞を送った。それでも「僕なんてまだまだですよ。カジくん(梶山)はすごい。尊敬します」と坊主頭を掻く姿はルーキーのそれだが、底が知れない選手だ。
日に焼けた肌は成長の証。この夏、確かな歩みを見せた。「アイツ、すごいぞ」。そんな声を最近よく耳にする。徐々に識者や、サポーターの間でも話題になり始めている。誰もが認める守備力と運動量、さらには攻撃センスも備えた型破りな逸材はまだまだ進化を続ける。もっと多くの人に彼のプレーを見てほしい。何年後かに「俺はルーキーのときから注目して見ていたんだ」と、自慢できるはずだから。
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